1.道徳心は他者理解から~心の理論
子どもの善悪の区別や道徳心の獲得は、他者の心の理解と切っても切り離せない深い関係があります。
「自分がされて嫌なことは人も嫌だから、しないように気をつけよう」などは、他者の心を想像するところから出てくるためです。
ただ・・
- 他の人がどう感じているのか
- 嫌だと思っているのか
- 面白がっているのか
- 怒っているのか
上に挙げた比較的単純な人の心ですら、子どもにとっては相当成長しないと分からないもの。
大人だって相手の心が分からなくてトラブルになるくらいです。
恋愛でくっついた、別れたとか、人の心を推し量ってどう行動したらいいのかの練習を、ある程度年齢の上がった大人すらやってますよね。
だから子どもが人の心を分かるわけがありません。
相手が声を荒らげているのに怒ってることすら分からない小学生は、学童クラブの小学生3年生にもたくさんいます。
ただ子どもながらに自分と人の区別ができてくると、
相手も嫌なんだろうな。
ちょっとずつ考える範囲が広がってきます。
実際には人の心なんて分からないんですよ。
だけど経験的に人の心を推し量ろうとする。
自分の生まれて数年の経験を100%駆使して感覚のみでやろうとするのは、人の持つ潜在的なコミュニケーション能力だと思います。
2〜3歳のイヤイヤ期で培われた経験を経て、4歳くらいになると人の心を推し量る能力"心の理論"が芽生えてきます。
心の理論に関しては、発達心理学の「スマーティーの箱実験」が有名。
スマーティーの実験とは・・
持っています。
何が入っていると
思いますか?」
そこに何も知らないB君がやって来ました。
『中には何が
入っていますか?』
と聞いたら、Bは何と答えると思いますか?」
さらに尋ねます。
あなたは何と答えましたか?
👆️この課題がクリアできる境界が3~4才。
3才は両方の質問に"鉛筆"と答えてしまい、年齢の上がった自閉傾向の子も似たような結果になります。
一方で4歳になると、「B君は何も知らないから「お菓子」って答えると思う」の正答率が明らかに上がってくるようです。
●自分の知ってることは、他人も知ってると考えてしまうのが3歳以前。
●自分と他人の知ってることは違うと分かるのが4歳以降。
この単純な他者視点がわかる段階から、少しずつ心や考えを推し量ったり感じたりして、「自分と違う他人について」の理解力をつけていきます。
他者理解を自分と結びつけて道徳心が少しずつ培われてきますが、時間がとてもかかることは想像できると思います。
2.コールバーグの道徳理論~子どもの善悪判断
前章では道徳心を培う前提になる、心の理論についてお話してきました。
そこをクリアした以降の社会的に通用する道徳心の獲得について、コールバーグという心理学者の道徳理論があります。
彼の理論によると6段階を経て、人は道徳心を獲得していくそうです。
大人でも人によっては最高段階に行くとは限らないところが、現実の世界をよく表していると思います。
2-1.道徳以前の段階
レベル1➔ 罰を受けるかどうか
レベル2➔ 損をしないかどうか
良い悪いではなく罰を受けるかどうかが判断基準で、罰を受けない限り何でもやってしまう段階です。
また損をしない or 利益があれば悪いことでも何でもやってしまうので放置もできません。
"怒られるからダメ"程度の理解段階と言えます。
これは保育園児くらいの段階だと思いきや、実は学童クラブにいる小学1~2年生や一部の3年生までこの段階に入ります。
20年以上の経験から
ただその子がどの段階にいるのか?はその子の発達特性や環境にも影響されるので見極めが難しいところ。
分かっていても衝動的に体が動いてしまうとか、問題行動として良くない行動が無意識に発現するとか、コールバーグの理論外の話です。
善悪判断は安定してればできるけど、それ以上のストレス源がある場合は行動に結び付かなくなるのも子どもの特性。
高学年以上の子どもですら、ストレスによっては容易にそんな状態になります。
ダメなことをしちゃう子でも落ち着いてるときに聞くと
って答えたり、同じことを他の子がしてたら
みたいに言ってたりしますが、
同じことしてたにゃ
👆よくあることです。
「理解していること」と「行動できる」は違うというのが、学童期までの子どもの特徴。
この記事では分かってるかどうか?を主にお話しているので、
分かってるけど他の原因で行動には結び付かないのは、扱わないことにします。
分かってるのにできない、に関しては以下の記事を参考にしてください。
【学童の子どもの叱り方】ベテラン指導員が教える外せない10要素
子どもの成長は早いですよね。
だけど足し算が一ヶ月あまりでできるようになるのとは違って、こういった能力は一足飛びに理解してできるようになるもんじゃない。
時間がかかることを承知で、過度に期待せずに根気よく関わっていく必要があります。
【子どもに期待をしない自然な関わり】勉強や成果は親の課題じゃない
2-2.外部道徳の段階
レベル3→他人から好かれるかどうか
レベル4→ルールに合っているかどうか
善悪や行動の判断基準が「怒られるかどうか?」よりは、少しだけ段階が上がったものです。
ただし自分の判断じゃなく、外から来たものに合わせてるだけの段階には変わりありません。
私が児童館で多くの中学生と関わってきた経験上、
子どもによって差が激しい前提で、だいたい中学生くらいまではここに留まっているように思えます。
これも分かっててもやってしまう、分かってるけどストレス発散などのために敢えてやるのは別の話。
【イライラして怒りっぽい子ども】反抗挑戦性障害へ繋げないための対応
2-3.内部道徳の段階
レベル5→合理的にできたルールかどうか
レベル6→良心に基づくのかどうか
完全に大人の道徳レベルです。
高校生くらいで到達してる子もいます。
一方で大人になって年齢だけ重ねても、いつまでも到達しない人もいます。
道徳心や理性による行動抑制は、脳の前頭前野の機能発達によるものなので、そこを鍛え上げていなければ年齢が上がったとしてもいつまでも成長しないまま。
人間力とか、対人能力みたいなのと同じです。
自分で物事を適切に判断でき、一般的に良いと言われていても自分でどうなのか考えられるような成熟度です。
3.子どもの心の育ちに有効な、アイゼンバーグの理論
一口に道徳や心の育ちといっても
- ルールを守る
- みんなのものを大事にする
- 自分を律する
- 他の人への思いやる
👆いろいろな面がありますよね。
そんな中でアイゼンバーグという心理学者が唱えた、向社会性という他者へ援助する思いやり行動についての研究があります。
思いやり行動とは
✔ 自発的
✔ 何らかの損失をもたらす
✔ 報酬を目的とした行動ではない
👆️こんな特徴があります。
自分ファーストだと意地でも一番になるのが利益だけど、人のことを思って順番を譲るとか、自分が損してでも利他的な行動をすること。
思いやり行動をする子は社会的にうまくやっていける能力が高いといわれていますが、言われなくても対人能力が高そうですよね。
しかもいろんな人から好かれると思います。
思いやり行動の発達は簡単にいうと
- 困っている人を見つけ
- 助けるか考え
- 実際に助けるかどうか
泣いている子の頭を撫でて
こんな行動は2才くらいでも見られ、うちの娘もやってました。
でもその後の発達は、親の関わりかたによるところが大きいとアイゼンバーグは言っています。
- 人に共感し
- 思いやり行動に価値があると教え
- 親が手本になり
- 子どもに経験の機会を与える。
👆これは誘導的しつけと呼ばれていますが、知らず知らずやってることも多いと思います。
大人が積極的に、子どもが他者貢献できるように心の育ちの方向性を誘導する。
2章でお話したコールバーグの理論だと、道徳はレベル4か5くらいまでは自然に育ちますが、
一方でアイゼンバーグの理論でいう向社会性は、なにもしなければ育たないとされています。
大人でも独善的な人はけっこういますが、そんな人は嫌われて社会力が低いまま。
子どもを導く保育者でも向社会性が低い人はごまんといるので、この記事を読んだあなたは子どものために何が良いのか?を考えてみてほしいと思います。
誘導的しつけ
自分の言動などが原因で人が傷ついている場合、相手がいかに苦しんでいるのか、嫌な思いをしているのかといった人の感じ方に注意を向けさせるようなしつけの仕方
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4.学校指導要領での道徳教育はどうなってるか?
小学校では道徳が教科として位置付けられたことで、学年ごとの到達目標が示されています。
目標とは、
「この学年の子はまだ到達していないけれど、頑張ればある程度の子は到達できる」
目安みたいなもの。
全員できるようになるわけじゃありません。
(前略)道徳教育を通じて育成される道徳性、とりわけ、内省しつつ物事の本質を考える力や、何事にも主体性をもって誠実に向き合う意志や態度、豊かな情操などは、「豊かな心」だけでなく、「確かな学力」や「健やかな体」の基盤ともなり、「生きる力」を育むために極めて重要なものである。
(引用元:文部科学省|小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 特別の教科 道徳編(PDF))
1、2年生
主として自分自身に関すること
● 健康や安全に気を付け,物や金銭を大切にし,身の回りを整え,わがままをしないで,規則正しい生活をする。
● 自分がやらなければならない勉強や仕事は,しっかりと行う。
● よいことと悪いことの区別をし,よいと思うことを進んで行う。
● うそをついたりごまかしをしたりしないで,素直に伸び伸びと生活する。
主として人とのかかわりに関すること
● 気持ちのよいあいさつ,言葉遣い,動作などに心掛けて,明るく接する。
● 身近にいる幼い人や高齢者に温かい心で接し,親切にする。
● 友達と仲よくし,助け合う。
● 日ごろ世話になっている人々に感謝する。
主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること
● 身近な自然に親しみ,動植物に優しい心で接する。
● 生きることを喜び,生命を大切にする心をもつ。
● 美しいものに触れ,すがすがしい心をもつ。
主として集団や社会とのかかわりに関すること
● みんなが使う物を大切にし,約束やきまりを守る。
● 父母,祖父母を敬愛し,進んで家の手伝いなどをして,家族の役に立つ喜びを知る。
● 先生を敬愛し,学校の人々に親しんで,学級や学校の生活を楽しくする。
● 郷土の文化や生活に親しみ,愛着をもつ。
3、4年生
主として自分自身に関すること
● 自分でできることは自分でやり,節度のある生活をする。よく考えて行動し,過ちは素直に改める。
● 自分でやろうと決めたことは,粘り強くやり遂げる。
● 正しいと思うことは,勇気をもって行う。
● 正直に,明るい心で元気よく生活する。
主として人とのかかわりに関すること
● 礼儀の大切さを知り,だれに対しても真心をもって接する。
● 相手のことを思いやり,親切にする。
● 友達と互いに理解し,信頼し,助け合う。
● 生活を支えている人々や高齢者に,尊敬と感謝の気持ちをもって接する。
主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること
● 自然のすばらしさや不思議さに感動し,自然や動植物を大切にする。
● 生命の尊さを感じ取り,生命あるものを大切にする。
● 美しいものや気高いものに感動する心をもつ。
主として集団や社会とのかかわりに関すること
● 約束や社会のきまりを守り,公徳心をもつ。
● 働くことの大切さを知り,進んで働く。
● 父母,祖父母を敬愛し,家族みんなで協力し合って楽しい家庭をつくる。
● 先生や学校の人々を敬愛し,みんなで協力し合って楽しい学級をつくる。
● 郷土の文化と伝統を大切にし,郷土を愛する心をもつ。
● 我が国の文化と伝統に親しみ,国を愛する心をもつとともに,外国の人々や文化に関心をもつ。
文部科学省HP道徳の内容の学年段階学校段階の一覧表から一部抜粋
定量的・数値的にどう測るかわかりませんが、こんなたくさんの項目が放っておいて自然に育つわけ無さそうですよね。
5.学童期の子どもの道徳心や善悪判断についてのまとめ
子どもに何かを教えるには、「このくらいの年齢の子なら、この程度は理解できる」という目安に従った、理解度に応じた教育が必要です。
まだできてないから教えるわけなので、理解できないことや、理解できても行動できないことが当然含まれています。
そこで
● すぐ行動が変わるのを期待して話す
● 話してもすぐには変化がないつもりで話す
両者では大きく違います。
子どもに変に期待して、
何でやるの(怒)
分かってくれるはずだと思って話して聞かせていても、当の本人はちんぷんかんぷん。
張り合いがないですよね。
道徳心については、大人が思っている以上に子どもは理解していないし、行動もすぐには変わらないつもりの、長い目で見た教育が必要です。
1章では心の理論について簡単に触れました。
「人と自分が違うこと」に気づくところから、思いやりや道徳心が芽生えてくるという話でした。
その年齢は4歳が境界なので、それ以前の子に善悪判断を求めるのは厳しいものがあります。
2章ではコールバーグの道徳理論を紹介しました。
一番レベルの低い怒られるからダメという価値基準は、子どもが始めにたどる道。
そこから先は経験を踏まえて、レベルが上がっていくという話でした。
3章ではアイゼンバーグの道徳理論として、向社会性と呼ばれる思いやり行動についてお話しました。
他人がどう考えているかを、大人が積極的に子どもに気づかせる誘導的しつけが有効。
人の心に気遣えるようになるには、大人が働きかけないといつまでも成長しないとアイゼンバーグは言っています。
4章では年齢の目安として、学校での道徳教育の学年別の到達目標を紹介しました。
子どもに道徳とか見えもしない、よく分からないものを教えようとした場合、
現時点で子どもが理解できる段階の話をして、日常的に繰り返し教えていくことが大切です。
そのためには、子どもがどの程度まで理解しているのか、いまはどの段階にいるのかをなるべく正確に把握しておく必要があります。
ありがとうございました。
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