0.気になる子とは~発達/行動/他の子との比較
さてこの記事でいう「気になる子」とは、保育・育成上で他の子とは大きく違う部分のある子です。
またそんなに目立たないけれど、感覚的になにか気になるレベルまで幅広くとっておきます。
発達障害が疑われる子どもやグレーゾーンの子、また行動が急に変わってきたとか、イライラしていることが増えたなどの行動面でも気になることありますよね。
対応に困れば気になりますが、対応には困らないけれど将来このままだとどうなるんだろうなどいろんな意味が含まれます。
そしてほとんどの場合、他の子どもとの比較によって「気になる」がでてきているはずです。
これを踏まえて記事を進めていきます。



1.問題行動?~学童保育での様子は保護者へ伝えるべき理由
結論から書くと子どもの様子が気になったとして、それを保護者へ伝えないないのはあり得ないということです。
主に3つの理由があります。👇️👇️
1-1.保護者に子どもへの責任があること
親は子どもに全面的な責任があります。
親元を離れている場面だとしても保護者の責任となります。
保育園や学童クラブにいる期間が数年スパンであるとしても、いずれは退所していきます。その後もずっと育てていくのは保護者です。
子育ての中で早い段階なら手を打てることがたくさんあります。発達に関しては可能な限り早い段階から然るべき対応をしたほうがよいという早期療育の鉄則があります。
学童クラブでは子どもの悪い行動は保護者へ伝えない傾向があります。
トラブルになってようやく伝えるというのも伝えないよりはマシですが、意味なく伝えないというのも傾向としてあります。
保育園(リンク 学童クラブと保育園の違い)とは異なりお迎えに来ずに一人で帰る子も多いので、伝える機会が限られているという理由もあります。
またセオリーとして連絡帳(連絡帳の書き方)には悪い面はあまり書かないので、よい面ばかり書いて知らせて一年中支援員の悪態をついている様子をずっと知らないで一年過ごすこともあり得ます。
普通の保護者は大人への悪い態度は正すでしょうから、この場合の保護者責任を知らせない事で果たせなくしているのが学童職員というわけです。
1-2.家では集団の中の我が子は分からないこと~保育現場で一番に発見する理由
家では友達はいないし、集団生活をしていないのだから、他の子どもとの関わりや、他の子と比べてどう違うのかについては、教えてもらえないと外での様子は分からないのです。
特に発達障害の場合は
- "複数の場で"
- "しばしば"
- "ある程度の期間に渡って"
特定の行動が見られるときに診断されますね。
ADHD診断基準より抜粋
はぐくむより引用
(中略)
しばしば外的な刺激によって、すぐ気が散ってしまう。
しばしば日々の活動で忘れっぽい。
*診断には上記のうち6つが少なくとも6ヶ月以上持続すること
発達障害の特徴には他の人との関わりの部分、つまりコミュニケーションの部分で診断されるものもたくさんありますが、これは家庭では知り得ないことです。
せいぜい「何となく変な気がするけど、こんなもんかな」と子どもに関する知識がなければその程度でしょう。
集団の場で初めてその子の特性が明らかになることはざらにあり、早ければ保育園で保育士がいち早く察知して明らかになります。
理解のある保護者のかたはこの辺りを分かっていますが、課題があったり障害受容の途中段階の方は「うちの子は家ではいい子だからそんなじゃない」と否認したりもします。
障害受容の過程
人は、障害が残ることになった時、まず衝撃に対して心理的に緩衝しようとして、障害の否認を行います。
健康長寿ネットより引用
しかし子どもの今と将来と最善の利益を考えると、「怒りを買ったとしても伝えていく」というのは前提となる姿勢です
(怒りを買うというのは表現としては考えものですが、"伝えないといけないことである"を強調しました)

1-3.施設でできる問題解決の限度があること
単なる問題行動なら家か施設か学校か、どこかにストレッサーがあるでしょう。
それが家庭にあるなら学童クラブでは解決できない問題となります。
また子どもの発達課題や障害が疑われるようなものなら、なおさら学童クラブだけでの対応ではだめで、まずは保護者に受診してもらうなりが必要です。
さて伝えることが必要なことが分かっていただきましたか?
次に子どもの様子を職員では共有しているけど親へ伝えるタイミングを図り続けていて結局伝えないとか、一ヶ月後の面談でようやく伝えるなども少なくありません。
そこで次で書く「時間感覚」が大切になってきます。

2.伝えるタイミングは一週間~事例を交えて
子どもの時間感覚では、一日がとても長いですね。
自分の子どもの頃を思い出してみてください。一ヶ月は永遠にも感じませんでしたか?
人間の体感時間について一定の法則が発案されたのは、意外にも遅く19世紀に入ってから。
フランスの哲学者であるポール・ジャネーが考えだし、その甥である心理学者ピエール・ジャネーが著述したことから「ジャネーの法則」と呼ばれています。
この法則の中では、人間の体感時間はそれまで生きてきた年齢に反比例すると考えられているのです。
例えば、30歳の人間にとって、1年間というのはそれまで生きてきた30年のうちの1年ですから1/30。人生の中のわずか3%少々ということになりますね。
ところが、5歳の子供にとっての1年間とは、5年間のうちの1年で1/5。人生のうちの20%以上を占めています。
つまり、同じ「1年」「1日」「1時間」であっても、5歳の子供の体感時間は、大人の6倍以上の長さであるということになります。
cotree
大人の一週間は子どもにとっては一ヶ月くらいです。
(ジャネの法則は「説」なので正しいかどうかは別にしても、お話としては分かりますね)
その状態で様子見という名の放置は、ある種の拷問です。
どういった支援をしようか、保護者へ伝えるべきだろうか、いや一ヶ月後に面談があるからそこで・・などと迷っている間でも子どもは日々を過ごしています。
2-1.こんな事例があります
春休みに入って数日後、特定の子へ意地悪が目立ってきました。
何もしていないのに通りすがりにわざとぶつかってみたり、その子がちょっとミスすると待っていたかのようにつけこんで過剰に攻撃をするなど。
その都度話や注意をしていましたが、その場その場では解決しているため、保護者へは知らせずクラブでの対処のみで様子を見ていくことにしました。
明らかに以前と様子が違うのに、保護者へ知らせなかった訳です。
二週間くらい経過して行動がエスカレートし、相手の子にケガをさせてしまったタイミングでここ二週間くらいの様子をようやく保護者へ伝えました。春休みが終わる直前です。
幸いなことに理解のある保護者で、すぐに家で話を聞いてくれ、本人が「みんなは春休で自由にしてるのに、毎日学童クラブに行くのはいやだ」と涙ながらに訴えたそうです。
嫌がらせを受けていた相手の家庭にも事情を話し、不手際を詫びました。
この事例では保護者の力を借りる形で、その日のうちに解決したわけです。
ここで大切なのは、子どもにとって大切な春休み。一日でも惜しいのに、何日も何日も子どもにストレスをくすぶらせた状態で、異変を察知していたのにも関わらずその場その場で表面に表れてきていることのみに対応し、原因を探ることなく放置してしまったということです。

2-2.忘れてはいけない時間感覚
このように問題解決をする上で、「時間」の概念は忘れてはダメです。
子どもと大人の時間の流れは別物です。
体感ですが、様子を見るのも3日もあれば見るべき点や、その子の課題が分かります。
平日のうち後の2日は後程書きますが"仮説思考"で立てた見立てを確かめて精度をあげます。
なので「前兆が見えてから一週間」これが保護者へ知らせる期限となります。
4月に子どもが一気に入所してきて対応が間に合わないときは、順番にやっていくほかないため仕方ないですが、ベースは一週間です。
3.気になる子どもの行動があったときにやること~見立てる(アセスメント)
3-1.見立てること~仮説思考とは
子どもの様子をみていて「何か気になる」レベルでは職員間では話ができても、保護者へは伝えられないでしょう。
子どもの行動や発言をよく観察し、要素を分解して、心理学や発達理論に基づいて分析してみましょう。
子どもの心理や行動を決める要素はたくさんあるため、ある程度「これが原因かもしれない」という仮説を立てます。
そしてそれを裏付けるために観察していき「やっぱりそうみたいだ」とか、「こうだと思ってたけど違うのか?」など考えていきます。
これが見立てです。
福祉用語ではインテークからのアセスメントとも言われ、課題の確認作業となります。
この原因を探る過程が「仮説思考」ビジネス的な課題解決の考え方です。
決めうちをして検証していく方法です。
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3-2.仮説思考の簡単な例~発達障害からくる二次障害も視野に
例えばすぐに暴力を振るってしまう子がいたとして、何もないときからよく見ていたら運よくケンカが始まりました。
物をとられたときに何も言わず、一瞬物を取り戻そうとしたけれど抵抗され、相手をぶってしまったようなケース。
考えられる課題としては
- 言葉で思いを言えない
- 衝動性が高いこと
- 人の気持ちが分からない
- 思い通りにならなかったときの行動がぶつしかない
- ぶつことを悪いと思っていない
- 相手の子との相性が悪い
こんな辺りでしょう。
喧嘩の時に「死ね」しか言わない、というのを似たような場面でも目撃したら、原因は「語彙が少ないこと、言葉がでない」ことだなと確信のレベルが上がりますね。
ほかの場面でちゃんと口げんかをできていたら、どうやら違うようだ、となるでしょう。
決めてかかっていき、検証を重ねていくというのが仮説思考です。
全般的な課題や他の子と比べて明らかな偏りがある場合は発達障害と、それによって引き起こされる二次障害も視野に入れて考えます。
二次障害
発達障害のある人は、うつなどの精神疾患の合併や、引きこもりなどの社会との不適応を引き起こしやすい傾向があるといわれています。それらは二次障害と呼ばれます
リタリコより引用

3-3.見立てる(アセスメント)
いつもは集団の中に埋もれがちですが、細かく見ることを決めて、何もないときでも意識して観察することで、「トラブル対応でしか主に関わらなかったから分からなかったこと」が普通は見えてきます。
落ち着いているときの何気ない会話でも探れるでしょう。
さらに行動の原因を進めていき、「すぐにぶってしまうのは親からも同じようにされているのでは?」など様々な可能性を考えていきます。
検証できない部分はとりあえず仮説として立てておいて、親との面談で探ったり学校担任と話す機会を待つなどをしていきます。
3-4.見立ての精度をあげるには
- 勉強を続ける
- 経験値をあげる
- 時間制限をつける
- 記録を読むなど過去のケースも分析してみる
- 細かい話まで分析対象にする
- 複数の人で見
これらによって見立ての精度が上がっていき、外すことが少なくなります。
外さないというのは、これをもとにして考えた対応策が効果的になるということです。
一週間で目処をつけることを目標に、3日以内に要点をまとめる時間制限をつけることで精度が上がります。
心理学の勉強やいろいろなケースを知ることが必須です。
このサイトではこの辺りもカバーできるように記事を書いています。
見立てるための心理の記事たち👇️
例えばお金を盗むリンクにも裏の意味がありますね。
お金の価値が分からないのか、友達に脅されているのか、可能性を探るためにはある程度の一般論を知っておく必要があります。
見立てですが、単に「発達障害かもしれない」などラベリングをしただけでさらに可能性を考えていないのは、見立てではありません。
見立てるのは、具体的な対応を探るために原因を探っている段階です。
次の具体策へ進めないようでは、見立てがまだ足りていない精度の低い状態と言えます。

4.保護者への伝え方~伝えることをまとめる
見立てがまとまって職員間で一致したなら、次は学童クラブとしての方針を立てていきます。
- 喧嘩の時は手を出すじゃなくて先生を呼んでねとつたえること
- 怒るのは普通のことでよいも悪いもないけれど手出しはダメと一貫して伝えること
- これじゃあ手を出しても仕方がないよねなど手出しを容認する言葉かけはしないこと
👆️のように具体的な関わりを決めていきます。
そして家でやってほしいことについてもまとめていきます。
して欲しいことを伝えずに、単に様子として伝えても言われた保護者もどうしたらよいのか分からずに迷ったり悩むだけです。
学童期の小学生についてノウハウや経験値がある学童クラブとしては具体的な対応まで見立てとして伝えていくのが最善策。
ですが問題の原因が家庭にありそうだと見立てがある場合は、
「どこかで何でもないところで怒られるのが続くと反射的に嘘をつくようになったりしますね、このケースに当てはまらないかもしれませんが。。」
などと一般論として伝えていったり、家では思い当たる節はないのか考えてもらうなど直接的に伝えない場合もあります。
5.保護者へ伝える、その伝え方
伝え方は特に難しいところで、4までの内容の習得は座学でも可能かもしれません。
しかしこの「つたえること」については実地での経験が不可欠です。
もともとコミュニケーション力が高い人は、相手の反応を見ながらいうべき言葉を勘で瞬間的に選び、さらっとやってしまう人もいます。
親を見て、応対によって対応を変えていきます。電話では表情か分からずに難しいので、込み入った話はできれば面談の場を設定したいところです。
私も元は理系の研究を一人でやりたいタイプの人間、人に関わるのは得意ではありませんでした。
しかし子どもの今と将来のために必要なことのみに絞って要素を踏まえて伝えていけばよいです。
ポイントをおさえていけばやれることです。全ての子どもに関する質問にたいして答えていく必要があるため、心理学など基礎勉強が欠かせない理由です。
また保護者との信頼関係を築くことは必須です。そのために、遡って子ども本人との信頼関係が必要になります。
家で子どもが「あの先生、嫌なんだよね」など話していると、保護者からはそれだけで不信感ありでのスタートです。
保護者も学童に求めるものは子どもについてが9割、残りが親もいたわってほしいと思う人がいるかいないか程度。
職員としては、親と仲良くなる必要もありません。(仲良くなれればいいですが、プライベートにまで入られないように自己開示の程度には気を付ける必要)
利用者との関係の記事
違うテクニックとしては心理の先生の意見をもらって、より客観的な意見として伝えるという方法もあります。受診を勧めるような場合には特に有効です。
心理巡回の先生の使いよう

6.伝えたからと言って・・時間がかかる/変化なしも
ここまで保護者に伝えることは必須と書いてきました。その手順や方法も書いてきました。
保護者も実は気にかけていたというなら話は進むと思います。保護者も不安でしょうから、寄り添って支援をしていく姿勢が問われます。
しかし全てがうまくいくわけではありません。
学童クラブとして正しい現状と見立てを伝えることは必要ですが、子どもに対する責任は究極的には保護者に委ねられているため、伝えたとしても保護者動かず、何も変わらない場合も少なくありません。
伝えるべきことを伝えた上で、保護者が変わることも期待しすぎてはいけません。今の日本の福祉は家庭が前提となっていて、どんなに偏った価値観でも理解して支援していきましょうというスタンスです。
やれることをやり、それでも保護者が変わらない・動かないとなれば関係機関との連携や、子どもか目の前にいるときになにができるのかを考える他はありません。子どもは集中して遊び込めればほとんどのストレスが軽減されます。
その辺りも学童クラブとしてとれる大切な方法論となります。
個別の子どもや家庭に入れ込みすぎることは精神福祉や医療用語では「逆転移」といいます。これも気を付けたいところです。
7.気になる子の様子を保護者へ伝えることのまとめ
いかがでしょうか。
必要な仕事としてやっていることも忘れてはいけないことで、保護者対応は非常に高度です。
入れ込みすぎてはいけないこと、子どものためを思うことで親へのアプローチ、家庭支援の方法を書いてきました。
習得するにも時間がかかり、心理学の勉強などは一生必要でしょう。そして問題はすぐ解決するのはまれなことです。
焦らずにポイントをおさえて事に当たっていきましょう。
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