1.不安と恐怖の違い
混同されやすい不安と恐怖ですが、不安へ対応する時に区別して理解が必要です。
何かを恐れたり心配してるのは同じで、違う点は恐れてるものがはっきりしてるか、してないかだけ。
恐怖
- 犬が怖い
- 死ぬことが怖い
怖い対象が具体的な場合です。
不安
なんかよく分からないけど、なんとなく落ち着かない、先行き不透明な感じ。
精神医学的には「対象のない恐れの感情」が不安と言われます。
不安(ふあん、英語: anxiety, uneasiness)とは、心配に思ったり、恐怖を感じたりすること。または恐怖とも期待ともつかない、何か漠然として気味の悪い心的状態や、よくないことが起こるのではないかという感覚(予期不安)である。
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2.不安の原因は?子どものせいじゃない!
"なんとなく落ち着かない"不安には、大まかな原因が2つあります。
- 生理的なもの
- 環境によって作られたもの
生理的に起きる不安
不安には脳内ホルモンとしてのセロトニンや、扁桃体が関係してるのでは?という研究があります。
「はっきりしないけどなんか危なそうだから、あっち行くのやめよ」みたいなのは本能で、ストレスによって起きる脳内の自然な働き。
猛獣が目の前にいなくても、想像することで「なんか怖い気がする」
👆結果的に危険な目に遭う確率は下がるので、危険を避けるための有効な機能と言えます。
まあ過剰になると「不安」によって精神不安定になるので、バランスの問題ですが。
また発達的な課題や障害も、生理的な原因となります。
ストレスがかかると、脳全体に突起を伸ばしている神経からノルアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質が放出されます。
これらの濃度が前頭前野で高まると、神経細胞間の活動が弱まり、やがて止まってしまいます。
ネットワークの活動が弱まると、行動を調節する能力も低下します。視床下部から下垂体に指令が届き、副腎がストレスホルモンであるコルチゾールを血液中に放出して、これが脳に届くと事態はさらに悪化します。
こうして、自制心はバランスを崩していくのです。
東邦大学理学部のコラムより
環境によって作られた不安
子どもに限らず、人間は経験によって脳が作られます。
例えば親の気分で叩かれたり、そうかと思えば急に優しくなったから甘えてみると急に怒られる。
こんな環境で育てば、"今は大丈夫かな?"みたいにオドオドして大人の顔色伺っちゃいますね。
怒られてばかり、食うものにも困るような環境で育ってたら、脳も作り変えられる感じがします。
こんな原因から出てくる不安・精神不安定さは生理的な原因と言えばそれまでですが、脳内のプログラムができた原因が生育環境によるという話。
生育環境は発達課題や障害があると悪くなりがちなので、悪循環に陥るのも少なくないことです。
不安からくる行動は、その子のせいではない
不安について、2つの原因を知ったところで1つ質問です。
不安は本人にはどうしようもないこと。
対応する大人に、この視点がある・ないでは大きな違いがあります。
✔行動をみて「困った子だ」と思って対応すれば、それなりの対応になりますが、"困った行動はその子のせい"という視点がベース。
✔「あなたも辛いのね」という理解がベースにあれば、全く違う対応になると思います。
不安障害とまで呼ばれるのは、不安が元になって本人がどうしようもなく、仕方なく取った行動が周りを困らせてしまった。👈そんな感じ。
まあ困った行動へ毎日毎日対応してたら疲れてきて、大人もイライラするのも仕方ない。
そもそも現れた困った行動が、本当に不安から出てきてるのか分からないことも多い。
だからこそ「まずは医者に」という話になってきます。
3.子どもの不安は、発達と関係して出てくる
年齢や発達によって、子どもが不安を感じたときに出てくる行動は違ってきます。
3-1.幼児期の不安感の出し方
幼児期は特に経験が少ないため、未知なもの・未体験に不安を感じやすくなります。
得体の知れないものを恐る恐る食べてみるとか、行ったことのない場所でいつも以上に慎重になるとか、犬を初めて見て「なんだこれ、怖い」、本能です。
そこで不安を感じたとき、出し方も原始的と言うか、
- おねしょをする
- 泣き叫ぶ
- あからさまに不機嫌になる
- 立ちすくむ
- 全く動かなくなる
- しがみついて離れない
分かりやすい行動がでてきます。
3-2.学童~小学生以降の不安の原因や表しかた
幼児期を越えて経験が増えてくると、自分との戦いになります。
自立と依存の葛藤、甘えたいけど恥ずかしい、自分一人でやっていきたいと思うと同時に助けてほしいとも思う。
こんな不安定さから、出てくる行動も不安で衝動的、傍から見ていて目的が分からない行動になりがちです。
さらに学童期〜思春期に差し掛かれば親へ甘えたいけど甘えきれない、でも一人は嫌だと思って回りを見ると似たような感じの友達がいっぱい。
親へ甘える代わりに友達に頼ってみたり、弱い部分を共有して安心したりと、親じゃなくて友達の価値が上がってきます。
だから友達とうまく行かないことへの不安が、次第に大きくなります。
友達が安心材料であると同時に不安の種という、根無し草的な状態なのです。
そこで安心ー不安のバランスが取れず、「不安」が募ると
- 適応障害
- 不登校
- 心身症
予期不安〜「こうなったらどうしよう」、まだ起きてないことを心配をします。
だいたいは"杞憂(きゆう)"って頭では分かってても、心配しておなかが痛くなる、学校に行こうとすると体が反応するとか。
そういう不安が原因の経験でも、繰り返すと人格に刷り込まれていくし、不安を周囲にも撒き散らして影響を与える。
本人と環境の双方が悪循環になるので、どちらにも対応が必要です。
杞憂
コトバンク
〔周代、杞の国の人が、天が落ちて来はしまいかと心配したという「列子天瑞」の故事による〕あれこれと無用な心配をすること。取り越し苦労。杞人のうれい。
4.子どもの不安障害の現れかたを知ると、隠れている不安が分かるかも
行動の原因は不安じゃないかもしれないけど、不安から出てくる行動は知られてます。
分離不安
場面緘黙 (ばめんかんもく)
場所が変わると全く話せなくなる
強迫
意味ないと分かっててもやめられない、手洗いばかりするなどの行動。
対人恐怖
広場恐怖
すぐに逃げ出せない公共の場所が怖い
パニック
逆に言えばこんな行動が出てきたら、原因には不安が隠れてるかもと予測できます。
すると原因へもアプローチできますが、専門知識と経験がないと難しいので、医者などの専門家の助けが必要です。
不安障害は素人がネット上の情報でなんとかなる代物じゃありません。
ただ基本対応の方針を知っておけば、その先が予測できます。
この章では、いくつかの不安が原因の症状に、一般的にはどう対応しているのかを簡単にお話していきます。
4-1.摂食障害(過食、拒食)
摂食障害は不安が原因で起きると言われています。
すごいガリガリになっても食べない、食べたそばから吐き出しちゃう拒食症だけでなく、食べ過ぎの過食も摂食障害です。
反動によって過食と拒食が入れ替わったりすることもあります。
ダイエット志向とストレス、他の不安感が組合わさってエスカレートし、強迫的になって「まだやせなければ」と思い込む。
「やせててきれいね」みたいなのを繰り返し聞かされるような、外からの情報も関係しています。
小さい頃の価値観の刷り込みが、摂食障害を発症するくらいの年齢になって効いてくるかもしれませんね。
✔病気による利得を切り離す
✔体重と自己評価は別といった教育
✔痩せてる状態は良くない価値観教育
✔家族環境へもアプローチ
摂食障害は医者に行って病気だと認知すれば治る病気と言われていて、医療では上のような治療が行われるようです。
拒食症は10代で発症する人が多く、過食症は20代に多い傾向があります。
両タイプとも90%が女性です。ただし、最近は男性の摂食障害も増えているという指摘もあります。
拒食と過食は正反対の症状に見えますが、拒食から過食へ、過食から拒食へと変わることもよくあります
厚生労働省みんなのメンタルヘルス
4-2.持病の悪化を心配
心身症とは、心や精神的なものが体の症状として現れてくるものですが、
一部の心身症は、元になる病気から派生して精神状態が悪くなり、悪循環のように出てくるものがあります。
持病があって、「また発症したらどうしよう・・」みたいな不安からお腹が痛くなるのが簡単な例。
起立性調節障害
立ち上がったときにめまいや動悸、失神など。
自律神経の障害が原因で起こるもので、学校の朝礼とかで長く立ってて倒れる子はこれ。
この障害の存在が知られるようになったけど、いまだにバカみたいに長く立たせてる学校がありそうで怖い。
10歳から16歳に多く、日本の小学生の5%、中学生の約10%にみられ男女比は 1:1.5〜2 と報告されている。
ウィキペディア
ぜんそく
気管支が炎症を起こし、気道が狭くなることで呼吸困難、アレルギーや運動、煙など汚れた空気、ストレスでも発作が起きます。
少しでも苦しい気がすると、呼吸困難になってくる、不安が症状を悪化させる病気です。
私も小さい時はぜんそく持ちだったので苦しみは知ってます。
マラソンなんかすると必ず発作が起きる。それを心配してるとちょっとの距離走っても出てくるのです。
ただ、ぜんそくになると嫌いな水泳を休めたりして利得も絡む。
反対に楽しかったりすると忘れてて、いつもより大丈夫だったりする、不安と症状が隣り合わせの持病と言えます。
過敏性腸症候群(IBS)
お腹の調子が急に悪くなる、消化器系の機能不全。
症状が出たときは地獄の苦しみなので、「その苦しみを味わいたくない」と思う反面、「いつやって来るか不安」と隣り合わせ。
ストレスでも出てくる症状が、更に状況を悪くします。
腸の収縮運動が激しくなり、また、痛みを感じやすい知覚過敏状態になります。この状態が強いことがIBSの特徴です。
実際に、大腸に風船を入れて膨らませて刺激すると、健康な人は強く刺激しないと腹痛を感じないのに対し、IBSの患者さんでは弱い刺激で腹痛が起こってしまいます。
日本消化器病学会
4-3.ADHDなどからくる悪循環
多動・衝動性から怒られることが多くなって、「また怒られないかな」と心配になることでストレスが高くなり、イライラしやすくなり怒られる行動をしてしまう。
環境によって引き起こされる不安ですが、もともとの気質が"怒られやすい"とそれが増幅される。
普通の子でも叱られてばかりだと精神不安定になりますが、ADHDなど発達障害の子は悪循環に入りやすいです。
悪循環を断ち切ることにつながるのは・・
本人の集中力が持つ時間を知る
発散させてあげる
叱り方ポイントを知って叱る
何が苦手なのかを知っておく
その子の特性と、本人じゃどうにもならないのを理解することが有効です。
5.不安行動による周囲の巻き込みは、巻き込まれている側が気づいて線引をする
子どもは少なからず周囲を巻き込みますが、不安から出てくる行動や症状は、その傾向が強くなります。
例えば強迫症の確認行動。
ちょっと物に触れたら「手が汚れて不潔になった」気がしてずっと手を洗ってる。
「鍵かけ忘れてないだろうか?」何回も何回も確認してくる。
はじめは丁寧に対応しても、繰り返し繰り返し確認してくるから、家族も親も不安になってくるし、面倒にもなってくる。
悪いことに下手に相手をして干渉すると、さらに確認行動が増す悪循環があります。
子どもの不安からの行動で対応に悩んだりすると、「巻き込まれている!」に気づけない場合も多いけれど、
まず巻き込まれてる側が理解して、本人の問題と対応する大人の問題を切り離しが対応の始め。
●困ってるのは子どもであって、あなたではない。
●「何とかしてあげたい」と思い過ぎず、あなたと子どもを混同しない。
さらに巻き込み行動に対しては、よく「限界設定」という手法が取られます。
「ここまでは対応するけど、ここからはしません」という線引きを宣言して実行する方法です。
手を貸す、叱る、援助するなどすべて「対応されてる」になるから、それらをあえてやらないことで、まずは周りの人が冷静になれます。
難しいことじゃなくて、「こうなったらこうする」をルールとして明示しておいて、実際にそうなったらちゃんと実行するだけ。
実行できるルールにしておくことと、事前に本人に理解してもらうことがテクニック。
あとはちゃんと言った通りに実行する強い力で、これが一番難しいんですけどね。
はじめは抵抗が強いかもしれないけど、宣言通りにすることが大切です。
見通しがたつことで、本人も自制する方向へ進んでいきます。
腕の立つお医者さんは、本人への治療とともに家族へのアドバイスも的確に行ってくれます。
6.安心と釣り合わせて不安を和らげていく方法~暴露法
子どもの不安行動への対応でよくやられる暴露法(エクスポージャ)を紹介しておきます。
不安行動へ対処して、結果的に不安を和らげる認知行動療法的な方法のひとつです。
認知行動療法
学習の理論をもとに患者の行動の変容を促す「行動療法」と、
医師が患者の認知の歪みを捉え、積極的にアドバイスをすることで治療の効果を期待した「認知療法」が基礎となっていますが、
あくまでも現在行われている認知行動療法とは、認知と行動に働きかける技法の総称だと言えます。
リタリコ
✔原因が良く分からないとき
✔行動が困りすぎるとき
✔原因が多すぎて良く分からないとき
に取られる広い意味での手法。
①不安行動で本人が得ている利得は何か?
②利得を他の方法で得られないか?
この2点を分析して困った不安行動を、他の問題ない行動に変化させるのを狙い、変化をする過程で行動がエスカレートする反応バーストも想定します。
分析して分かった利得を与えながら、不安要素にもさらして釣り合わせて0にする。
怖いけど抱っこしながら一緒に行ってみる、「お化け屋敷は怖いけど、手を繋いでいこう」みたいなのです。
ただ暴露法はお母さんが無意識に使っている場合もあるけど、強迫症みたいな強い症状を素人が治そうとするのは危険。
かえって長引かせたり、反応バーストに対処しきれなくなったり、想定外のことに対応できないでしょう。
ここで書いているのは単なる紹介なので、実際の治療にはやはり専門家の助けが要ります。
ちなみに暴露法は、自分自身への不安解消にも使えます。
自分の状態をコントロールして一人でやろうと思うなら、
「大丈夫だ」みたいなキーワードを唱えるとか、「今私はこれが怖いと思ってるけど実は~」みたいに言語化することで解消を図っていきます。
7.まとめ
冒頭でもお話したように、子どもに不安障害が出たら素人が判断して策を巡らせるよりは、医者に診てもらうのが第一歩。
不安障害が実際に出ている子どもの背景や家族も含めた環境、性格や発達の具合、症状の強さなどさまざまな要素を加味して個別に治療方針が立ててもらえるからです。
不安の原因が生理的なものの場合、セロトニン阻害薬みたいな投薬で収まることも少なくありません。
早く受診すれば早く苦しみから解放され、親も見通しが持てて安心となる可能性が高くなります。
その時に受ける説明は、この記事で得た知識をもとにすればスッと自然に理解できるでしょう。
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