0.ご褒美でやる気をなくすアンダーマイニング効果/やる気が出るエンハンシング効果
先に結論をお話すると、
やる気をなくすアンダーマイニング効果
✔短期的な報酬や罰は、どちらを使ってもやる気が無くしやすく、自主性が育ちにくい
✔過程や頑張りでなく、結果だけを褒めるのもやる気が無くなりやすい
やる気を出すエンハンシング効果
過程を褒めたり、行為や人格を認めると内発的動機づけの意味でのやる気が出やすい
子どもは実体験によって様々なことを学ぶので、まずは興味があってもなくても一度でもやってみること。
ですがそれ以降のやる気や興味が継続するかは、本人の嗜好だけでなく、大人の関わり方によって大きく左右されます。
せっかく興味を持ってやり始めたことも、関わり次第でやる気がなくなったり、ご褒美目当てにしか行動できなくなったりします。
逆に習慣になってるように思っていたけれど、やらない時の罰がなくなった途端にやらなくなったりします。
1.やる気・モチベーションとは心理学的には動機付けのこと
人が「何か行動をしよう、やってみよう」と思うのを動機付けと言います。
やってみようというのは人の持つ欲求から出てきますが、それが自分から出てきたのか、外のものが関係してるのかで
- 内発的動機づけ
- 外発的動機づけ
👆大きく分けてこの2つに分類できます。
動機づけは人間を含めた動物の行動の原因であり、行動の方向性を定める要因と行動の程度を定める要因に分類できる。
動物が行動を起こしている場合、その動物には何らかの動機づけが作用していることが考えられる。
またその動物の行動の程度が高いかどうかによってその動機づけの強さの違いが考えられる
ウィキペディアより引用
内発的動機付け
- 好きで自発的にやる
- 嫌いで自発的にやらない
- 好きだからやる
- 好きじゃないからやらない
- 使命感を持ってやる
- 本能的な興味から考えなしにやる
外発的動機付け
- 報酬が目的でやる
- 褒められたくてやる
- 称賛されたくて頑張る
- 罰を受けないために頑張る
- 叱られないように「しない」
外発には報酬のプラス方向のものだけじゃなく、やらないと罰を受ける・これをしないと好きな◯◯ができないからなどマイナス要素も含みます。
外発的動機づけは自発的にやっているように見えても、その行動には無意識でも打算が働いてる状態。
だから一見習慣でやってるように見えても、報酬や罰が外れた途端にやらなくなるのはよくあること。
良い悪いではなく人間の性質です。
自分でゲームやりたくて宿題やるなら納得しているので内発的動機づけも働いています。
でも👆こんな風に言われて無理に頑張らされているのは、コントロールされてます。
コントローラーが無くなったら動かなくなるのは当たり前と思いませんか?
親が子どもにやる気を出して欲しいなら、動機づけは「内発的にそう思ってくれる」ように手立てを考える必要があります。
動機付け・やる気について、その心理状態や持っていきかたは昔から心理学において研究されてきたものです。
以下ではやる気についての心理的効果を二つ紹介していきます。
2.やる気をなくすアンダーマイニング効果、間違って働かせずご褒美を使うには
アンダーマイニング効果はやる気を無くす心理効果として有名です。
(「アンダーマイニング」は「弱体化」などと訳される)
やる気を出して欲しい!と思って出したご褒美が、結果的にやる気を無くす。
「今これしたら直後にこれ」といった短期的なご褒美は特に、内発的動機づけに結びつかないためアンダーマイニング効果が働きやすい
➞ご褒美出すなら、長期的な視点で出すのが○
ご褒美でやる気をなくすアンダーマイニング効果の実験
1971年エドワード.L.デシとR.レッパーの実験
参加者を2グループに分けて、当時人気だったパズルを解かせた。(互いのグループの様子は分からない)
一つ解けた方に1ドル渡すグループ
➞ モチベーション低下した人が多かった
ご褒美何もなしグループ
→モチベーションそのままの人が多かった
楽しいはずのパズルを解く事が報酬と結び付いたことで、かえってやる気がなくなったということです。
「楽しい上に報酬ももらえてラッキー」だったのは始めだけで、
●「報酬なしにはつまらない」
●「報酬のためにやってるみたいで、パズルが面白かったのに、急につまらなくなった」
となったのです。
こんな例は経験的にも、いくらでもありますよね。
・好きで無償ボランティアをやっていたのにお礼のお金が出るようになったら、お金がもらえないとバカらしくなってきた
・勉強を好きでやってたのに、テストの点数でご褒美がもらえるようになってモチベーションが下がった
好きでやっているのに、特にお金や物などを安易に与えるのは元々あったやる気まで失いかねません。
また長期的な取り組みのご褒美は、それに至るまで自分でやる意味を見出したり習慣化するのでOKですが、
特に短期的に「これ終わったらご褒美」として嫌なことをさせるは親としてやりがちですが、
その場しのぎにはなるけどやる気に結びついてるようで長期的には逆効果ということ。
ではやる気を出すにはどうしたらいいのでしょうか。
それは次の章で紹介するエンハンシング効果、結果に対しての報酬ではなく過程に対しての報酬が効果的です。
3.やる気を引き出すエンハンシング効果
エンハンシング効果とは、「能力や結果」ではなく「過程や頑張り、人格」を褒めることでやる気が増す心理効果です。
ご褒美の対極に罰がありますが、「バツよりはご褒美」というお話をまずしますね。
ハーロックの賞罰実験
賞罰実験はエリザベス・B・ハーロックが1925年に行ったもの。
子どもたちを3つのグループに分け、一定期間に試験を数回受けさせました。
- 試験のたびに褒められ続けるグループ
- 試験のたびに叱られ続けるグループ
- 何も言われないグループ
結果はどうなったでしょうか。
何もないグループと比べて、褒められ続けるグループの成績は上がりました。
叱られ続けるグループは、始めは叱られないように努力しましたが、結局成績は下がりました。
外発的動機付けとして、
- 褒められる
- 叱られるのを回避する
の2種類がありますが、ハーロックの実験を見ると、どうやら罰よりは報酬の方がよさそうです。
大人の感覚的にも「叱られたくなくてやる」のは、何か志が低いというか、後が続かない感じがしますよね。
https://www.nomaken.jp › bo…PDF
学習と賞罰 - 野間教育研究所
ご褒美のあげ方の実験
ご褒美が良いとして、その報酬の与えかたについて1990年代コロンビア大学の実験があります。
10歳~12歳までの子どもたちを3グループに分けて知能テストを行いました。
テストの結果を個別に呼び出し、「成績は100点満点中80点でした」とそれぞれに告げ、その際グループごとに
①頭がいいね(結果や能力を褒める)
②日頃の努力の結果だね(テストの結果でなく日常を褒める)
③何もなし
その後、次のどちらの課題をやるか選んでもらいました。
- 難易度が高く、やりがいもある課題
- 簡単に解け、学びも少ない課題
さて結果はどうなったでしょうか👇️
✔何もなしのグループは半々。
✔結果を褒められたグループは6割が簡単な問題を選んだ。
✔日常を褒められたグループは、1割しか簡単な問題を選ばなかった。
結果や能力を褒められたグループは、失敗を恐れてしまったり、頑張らなくても大丈夫と思ってしまう心理から、
敢えて難しいことをやらなくなり、やる気が無くなったわけです。。
一方で日常の素行や頑張りを褒められたグループは、明らかにモチベーションが上がっています。
このようにエンハンシング効果で、他人からの報酬、褒めることは
✔結果や能力を褒めるのは逆効果
✔過程や努力を褒めていくのが良い
褒める行為一つ取っても褒め方によって、モチベーションが上がるか下がるか分かれてきます。
頑張りに対する「人からの称賛や承認」は外発的動機づけですが、自分のモチベーションになりやすいということです。
※アンダーマイニング効果や賞罰実験、コロンビア大学の実験結果は、0か100ではな可能性や傾向の話です。
4.ご褒美の内容とあげかたの正解/間違い、やる気が出るかは興味の影響も大きい
報酬があって、それに向かって頑張っていたけどご褒美が無くなった・・
モチベーションを保てる人もいますが、多くの人はモチベーションを保てない可能性が高くなります。
モチベーションを保てるか保てないかの違いは
✔ご褒美は短期か長期か
✔長期的に頑張る途中で習慣化したか?
👆この2点にかかっています。
短期的なご褒美だと、アンダーマイニング効果発動!
ごほうびや賞などを目指して頑張る人もいるため、報酬が悪いわけではありません。
しかし短期的なご褒美はその場限り。
報酬を得ればそれまで、得られなくてもオシマイなので、
「自発的に頑張る」動機づけ、または「頑張る頑張らない以前の習慣」どちらにもなりません。
そしてご褒美が出ればやる気が出るけど、ご褒美がなくなると逆に何もなかった頃よりやる気がなくなるアンダーマイニング効果が発動します。
長期的なご褒美だと、エンハンシング効果が出てきやすい
では長期的な報酬はどうか?
例えば「大学に合格する」を目指して1年頑張ったケースを考えてみましょう。
大学に入ることが目的の受験勉強で、入った途端にダラけて、
せっかく入った大学を中退してしまうのは、「合格する」という報酬のためだけに頑張った結果。
長く頑張ったつもりでも、やる気が保てていたのは報酬目当てだったからで、
取り組んでる過程で習慣したり、興味を持てなかったので、報酬を得たらそれまで。
👆短期的なご褒美の場合と同じです。
だけど長く取り組めている状態では、少なからず興味を持ったり習慣化するので、
勉強が好きになっていることも多いですね。
私は元々勉強が好きで、勉強するのは習慣化してました。
学年で一番になったからと言ってご褒美はもらったこともないけど、
小さい頃に勉強して知ったことを話したら褒められたり、友達に称賛されたりは覚えているので、
多分エンハンシング効果も働いていたのでしょう。
そして東大に入って周りを見たら、「勉強自体が好きな人のみ」で嬉しくなったのも覚えています。
初めこそ「合格する」と言う報酬目的だったとしても、
長く取り組んでいると勉強すること自体が目的になり、「入ってから〜したい」という別の動機に変わっていきます。
長期的な報酬は、習慣化を助けるためのツールになるという話。
やる気が出る出ないは、本人の興味が湧くか?も大きく関係するので、他人からの賞罰では変えられないこともあります。
音楽演奏に全く興味がないのに、保育士資格試験のためだけにピアノを練習するみたいなもの。
このように外発的動機付けである報酬は、興味を持つきっかけにするためだけに使う。
いつまでもそれに囚われていると報酬が目的になり、アンダーマイニングが効果発動するわけです。
●興味を持ってやりはじめた段階(内発的動機付けが育った段階)あたりで、報酬は徐々になくしていく。
●はじめから興味を持っているものに報酬はあげない。
●長期的なご褒美で習慣化してもらう。
●興味が全く無いものは、ご褒美をどう使っても無駄
それとは別次元の話ですが、自己肯定感や自分に価値があると思える感覚を養うには、認められることの経験が必要です。
存在そのものを認めるのはなかなか難しく、感じにくいものですが、
やっていることについて
などの声かけは簡単。
その子のやっていることについて過程を認めていくことが、ひいては自己肯定感や自信に繋がっていきます。
ごほうびをあげるにしても、たまに、「いつも頑張ってるから」という理由で、次回を期待させない感じであげるのは励みになると思いますよ。
5.やる気を左右するのは自己肯定感の高低も大きく関係する
やる気について重要な要素は、「自己肯定感」や「自己効力感」。
何かに取り組もうとするときに、
「どうせ失敗するから」とか、「苦手だな」
と思ってやるのと、
「面白そう、やってみよう」「失敗してもいいじゃん」
と思ってやるのでは大きく違いますね。
👆取りかかる物はどちらも同じで、捉え方ひとつ。
日常的に培われた自分に対しての自信や、「できるだろう」と言う見通し、前に同じような場面でうまくいった経験など。
アンダーマイニング効果やエンハシング効果は、大元の自己肯定感に比べたら小手先の技かもしれません。
大切な自己肯定感を高める方法はこちらの記事で詳しくお話しています。👇️
6.幼児のご褒美は深く考える必要無く、親の精神衛生のほうが大切
ここでは1歳~4歳くらいの子についての事をお話していきます。
ここまでの賞罰とやる気などの話は、物への執着がなく、いろいろな物事に興味しかない小さい子には当てはまらない気がしています。
ごほうびシールなどが販売されていますが、それすらも小さい子にとっては興味の一環。
ごほうび目的とか、叱られるからやめておこうなどは、よほどきつく叱ったり虐待まがいの事でもしない限り、行動の変化はありません。
また長期のご褒美がいいと言っても、幼児はそこまで計画的に考えることもできず。
だから幼児までは、アンダーマイニング効果やエンハンシング効果は考えなくても良いでしょう。
しかし別の目的で「子どもの成長や成果を見える形にする」のは子育て上で有効なこと。
なぜなら小さい子はお世話が基本なので、親が疲弊する年齢。
親も疲れてくるとイライラしたり、つい叱ってしまうばかり、後で後悔するのも多いですよね。
そんな時に「ごほうびシール」を小さな頑張りに対してあげ続けると、
子どもの成果を、親が知ることができます。
✔トイレを失敗しなかった
✔ご飯をちゃんと食べられた
ほんの小さなことでシールを貼っていくと、子どもの頑張りも見え、親としても子どもをほめる機会が自然とできます。
小さな子にはご褒美と言っても些細なもの。
やって当然のことについてはご褒美は徐々になくしていくのが基本ですが、
親の精神衛生のためにやるという意味が大きいのです。
追加報酬として、褒められる機会が増えた子どもの自己肯定感が上がるので、一石二鳥だと思います。
ごほうびシール👇
7.子どもへの間違ったご褒美をあげない、のまとめ
✔短期的なご褒美は出さない
✔好きでやってるものに、安易にご褒美は出さない
✔長期的に頑張ったご褒美は、習慣化に結びつきやすい
✔罰よりご褒美
✔ご褒美は能力よりは過程を褒めることや存在承認
物的な報酬は、使うのなら興味を持たせるきっかけとしてだけ使い、徐々に無くしていくのがよさそうです。
それらの前提となるのが自己肯定感、自己効力感です。
ありがとうございました
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